金銅山王十社御正体
こんどうさんのうじゅっしゃみしょうたい
概要
鏡板裏面の刻銘により比叡山の鎮守山王二十一社中の、上七社および中七社のうちの三社を象徴する本地【ほんち】仏・垂迹【すいじやく】神・俗形等の尊像を表した懸仏【かけぼとけ】形式の御正体であることが知られる。
尊像はいずれも床座に坐し、三曲屏または鳥居形屏を背にしており、薄肉に鎚起し、細部に線刻を施した銅製鍍金製で、表面を鏡に擬えて鍍錫した銅製鏡板に鋲止めしている。
鏡板の裏面には当板がなく、各々の尊像の背面部にその名を、また中央には寄進年および寄進者名が線刻されており、その作期・由緒が明らかである。
刻銘中の阿蘇谷とは、現在の熊本県球磨郡須恵村の球磨川支流の阿蘇川に沿った一帯のことと考えられ、平景俊は当地の豪族であった。詳らかではないが、この御正体が、同じ球磨郡水上村に所在する市房山の霧島神社奥院に伝来したとされるのも興味深い。
鏡像から懸仏への発展過程を明確にする、懸仏形式御正体の初期の稀少な基準作として価値高い。