陸中沿岸地方の廻り神楽
りくちゅうえんがんちほうのまわりかぐら
概要
これは権現様(獅子頭)を奉持して行われる東北地方に広く分布する獅子神楽の一つであるが、陸中沿岸地方のそれは、年の初めに、かなりの広域を長期にわたって巡業して廻村する点に特徴をもっている。
岩手県宮古市の黒森神社と、下閉伊郡普代村の鵜鳥神社は、それぞれ三、四〇〇メートルの山に鎮座していて、ともに陸中沿岸の海上を行き交う、航海安全、豊漁を願う漁民から厚く信仰されてきた。両神社の神様を降ろした獅子頭を奉持した、それぞれの神楽衆は、北は久慈市のあたりから南は釜石市あたりまで、一年おきに北の方に向かう北廻り、南に向かう南廻りの廻村巡業神楽を行ってきた(一方が北廻りの時は他方が南廻りというように交互に)。このように両神楽は、沿岸の村々を訪れ、昼間は各家々の門を巡って、悪魔払いや家内安全などを祈祷し、夜は事前に予約していた一般の民家を宿として、宿の一間に幕を張り、夜遅くまで神楽の諸演目を演じて村人を楽しませる。普通一つの村に一泊であるが、大きい村になると二泊、三泊とする。毎夜宿で神楽があるが、一晩に一二演目を演じることになっている。「清祓」「御神楽」「山の神舞」「恵比須舞」などの役舞、あるいは狂言、武士舞、女舞、仕組物など各種の演目から構成される。
長期にわたって巡業する特徴のあるこの両神楽は、今日、住民の生活環境や意識の変化により、各村で神楽宿を引き受けてくれる民家が急激に減ってきているなど、その伝承が徐々に困難になってきている。この巡業神楽に伴う貴重な習俗が失われつつあるので早急な記録保存が必要である。
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