紅地麻葉繋花車模様縫箔
べにじあさのはつなぎはなぐるまもようぬいはく
概要
紅繻子地に金箔で麻葉繋文を摺り表わし、花籠を積んだ車、いわゆる花車を刺繍で表わした豪華な縫箔である。花籠には桜、藤、牡丹、杜若、鉄線、撫子、菊、紫苑、桔梗、椿など四季の草花が様々に組み合わされ、色とりどりの色糸が鮮やかに使われている。花車は、様々な向きに留め置かれ、花も左右、上下に広がっているため、軽やかな印象を受ける。
附属の畳紙には「赤地華車箔」と墨書され、内側には「文化七庚午年九月」の墨書もあり、文化7年(1810)まで遡ることができる。また畳紙には「堀池」との墨書の上に土佐柏紋の朱印が押された和紙が貼られている。土佐藩お抱えのシテ方能役者・堀池家との関連も考えられる。
さらに徳力富吉郎『名作能衣裳』(有秀堂 1937年)には、「山之内侯傳来」「高知 川崎源右衛門氏御所蔵」として図版も掲載されている。同家は高知城下屈指の豪商である。刊行当時、その邸宅には、見所を完備した能舞台まであったことも解説されている。
土佐藩12代藩主・山内豊資は喜多流免許皆伝の能好きであり、所用の能装束は、分家で甥の山内豊章に預けられ、明治維新後に浅井・川崎両家に譲渡されたことが近年判明した。本品もそのうちの1領ということになる。
参考文献:『土佐山内家の能楽』(国立能楽堂 2018年)