一色の翁舞
いっしきのおきなまい
概要
一色能は、遠く咒師猿楽【しゆしさるがく】の流れを引く伊勢三座のうちの和谷【わや】座の能が、十六世紀末に一色に移ったものとされる。能自体は元禄以降喜多流に変わり、狂言も和泉流となり中央との顕著な差異は認められなくなっているが、式楽として重んじられている「翁」に、中央の五流にはみられない特殊な様式を伝えている。そのうち最も大きな特徴は、「神楽」(シンガク)という固有の様式である。
通常能の翁舞は、「千歳【せんざい】」・「翁【おきな】」・「三番叟【さんばそう】」で構成されるが、一色の翁舞では、「千歳」の代わりに「神楽」(シンガク)と称する。その衣装仕度は、鳥甲【とりかぶと】・直面【ひためん】・単狩衣【ひとえかりぎぬ】・白大口【しろおおぐち】、右手に三〇センチほどの桴【ばち】、左手に玉の大きい鈴を持つ舞であり、囃子も謡もない、というように通常の千歳とは大きく異なる内容をもっている。
そのほか「翁」と「三番叟」の演出でも一般の能とは異なるところをもち、総じて古い形式を伝えているのではないかと考えられ、能楽の大成に至る変遷の過程を知る上で重要である。
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