暮春浴泉雑作
ぼしゅんよくせんざっさく
概要
終画をくねらせる「新」字、突き上げる「遊」字、擦れて再度筆を押し込む「門」字など、擦れながらも先端まで神経が行き届いている。擦れとたっぷりとした墨付きが対照的なアクセントとなって躍動する本作品は、亡くなる前年とは思えぬ閑叟の気魄を感じさせる。
本詩は、鍋島直正漢詩文集「直正公詩集」に、慶応2年3月の作詩として収録されている。現在の4月頃にあたるこの時節を、「澗上花零新緑柔(渓谷上の花が零れ落ちて新緑の色がまだ柔らかい)」と詠んでいる。
「作浴泉遊(浴泉の遊びを作さん)」(2行目)とあるが、春暖に誘われた閑叟はこの年の3月~4月にかけて2週間ほど塚崎(武雄温泉)に滞在している。