金胎仏画帖
こんたいぶつがじょう
概要
赤、緑、青…あざやかな色で描かれているのは、密教の仏。密教とは、仏教のひとつで、大日如来という仏を中心にした「ひみつの教え」を説いたものです。この冊子には、『金剛頂経(こんごうちょうきょう)』という密教のお経に出てくるさまざまな仏が描かれています。それぞれのページには、仏についての基本的な情報が記されていて、まさに仏像辞典のようなものです。仏画を描くことを職業としていた絵仏師(えぶっし)、詫摩為遠(たくまためとお)が描いたと言われています。
この作品は本の形をしていますが、これは当初の完全な姿のほんの一部です。もともとは表紙のついた100ページ以上の冊子で、胎蔵界(たいぞうかい)と金剛界(こんごうかい)という、密教における二つの世界のうち、金剛界の95の仏が描かれていました。熊本のお寺に伝わっていましたが、歴史の荒波にもまれる中で分断され、今はいくつかの美術館・博物館などに所蔵されています。
辞典のようにそれぞれの仏のかたちや特徴を伝えるだけであれば、線のみで描き色をつけない「白描(はくびょう)」でも役割を果たすのですが、この作品は美しく彩色されています。たいへん珍しいケースですが、身分の高い人びとに見せるためのものだったのかもしれません。
おだやかな顔つきの仏が、のびやかで柔らかい線、そして美しい彩色であらわされています。天皇や貴族など、当時の高い美意識をもった人に見てもらうものとして、技術を凝らしてつくられたものでしょう。一本の線にまで徹底的にこだわり、美しい表現を生み出した平安時代という時代を、ここから感じ取ることができます。