紙本淡彩風雨渡江図〈田能村竹田筆/己丑ノ年記アリ〉
しほんたんさいふううとこうず〈たのむらちくでんひつ/きちゅうのねんきあり〉
概要
本作は,江戸時代後期の文人画家・田能村竹田の手になる作品である。
縦に細長い画面に,近景に風雨に揺れる樹木と川岸の人家,川を挟んで彼岸の遠景に岩山と山閣を配し,中景の波立つ川には,激しい風雨の中渡り来る小舟を一艘描く。小舟には傘や蓑(みの)で風雨を必死にしのぐ人物が描かれ,近景の家屋内には,小舟の方を見やる人物と,眠るような姿の人物が描かれる。建物や人物には淡彩が施され,濃淡の墨色が引き立てられている。画面上半部には岩山から吹き降ろす風雨や霧を表現するのか,帯状に白く塗り残された筋がある。
画面上部には,竹田による自題(じだい)が施されており,「南豊 田憲(なんぽうでんけん)」と署名する。自題中に「今茲己丑初秋,在大阪府」とあるように,本作は文政12年(1829)53歳の年に,大坂滞在中に制作されたことがわかる。
竹田の門人帆足杏雨(ほあしきょうう)が編さんした『自画題語(じがだいご)』後編一に収載の「風雨渡江図」の題語は,本図のものと若干の異同があるが,これによれば,本図は竹田と親交のあった医師松本酔古(まつもとすいこ)のために描いたものとされる。
竹田は晩年に繊細で味わい深い優品を多く残しているが,本作も竹田円熟期の作品であり,風雨にさらされる木々や山肌,小舟の動感に富んだ描写や,人物や川面(かわも)の素朴な描写の味わいには見るべきものがある。本作は,重要美術品にも認定されており,田能村竹田の画技の水準を示す基準作として,重要な作品といえる。
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