色絵桜樹図透鉢
いろえおうじゅずすかしばち
概要
鉢の内と外に、満開の桜の木を色絵であらわした作品です。桜の花や木の幹、土坡(どは)などは、濃い色を用いて大胆な筆運びで描かれています。側面の上のほうにぐるりと開けられた透かしは輪郭が不整形で、鉢の口縁(こうえん)も直線的でなく凹凸(おうとつ)につくっています。こうした鮮やかな色彩の対比や、のびのびとしたタッチ、厚めのつくりや不整形な輪郭などから、器は暖かく素朴な印象を私たちに与えます。しかし全体には、作者のすぐれた造形感覚が働いています。器の外だけでなく、内側にも同様の桜の樹木を描くことにより、遠近感が生まれ、奥行きのある空間をつくりだしています。満開の桜の間に、透かしの穴を通した背景が混じりこむことで、不思議な桜並木の世界が出現しています。器の底裏には大きく作者の名が記されています。
仁阿弥道八(にんなみどうはち)は1783年生まれ、1855年に没した陶工で、京都で作陶を行いました。京都では伝統的に、鮮やかな色彩を用いて絵付けをした「色絵」の陶磁器の製作がさかんでした。16世紀後半以降、日本の古典的な美術・文学の主題や意匠モチーフを素養としながら、斬新な美術工芸の様式へと展開させた作家集団「琳派」(りんぱ)が活躍します。その集団に属する作家のひとりに、1663年に生まれ1743年に没した尾形乾山(おがたけんざん)がいます。乾山は京都を活動の中心とし、数多くの色絵陶器の名作を今に残しました。仁阿弥道八はこの尾形乾山の作陶に大きな影響を受けたといわれています。しかし単なる模倣ではなくそれを消化し、より立体的な造形や大胆な絵付けに、独自の才能を開花させたのでした。