ガラス碗
わん
概要
吹きガラスの表面をカットした、いわゆるカットグラス(切子ガラス)です。ササン朝ペルシア(3世紀~7世紀)で作られました。今のイランの北部でよく発見されます。貴重な特産品として、はるばる日本にやってきました。実は、この作品とよく似たガラス碗が奈良・東大寺の倉庫である正倉院の宝物(ほうもつ)としても伝わっています。この2つは、やや飴色がかった色と大きさがほぼ同じであるほか、切子の数と段の数も一致しています。丸くぽってりとしたフォルムは手におさまりがよさそうですが、カット面はなかなか鋭そうです。
この作品は、6世紀の安閑(あんかん)天皇のお墓として伝わる古墳から、江戸時代に見つかったとされています。江戸時代には、古典に基づいて古代日本の思想や文化を研究する国学(こくがく)がさかんになりました。それと同時に古いものへの関心が高まり、この碗も多くの文人の注目を集めました。まるで茶道の道具のように、専用の布のケース・仕覆(しふく)に包まれ、漆の内箱と木の外箱に入れられて伝わっています。一部黒く変色しているのは、当時、割れていたところを漆で継ぎ合わせたあとです。このガラス碗を当時保有していた人が、いかに大切にしていたかがわかるようです。正倉院のガラス碗が完全無欠といってよいほど綺麗な状態であるのに対して、本作品は、その継ぎ目自体も歴史の痕跡をとどめるものとして貴重です。