母子
概要
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母子
Mother and Child
1934年
絹本彩色・額 168.0×115.5cm
松園の父は、彼女が生まれる2カ月前に亡くなっており、葉茶屋を営んでいた気丈な母仲子に育てられ、また絵を学ぶ機会を与えられていただけに、松園にとって「母子」というテーマは生涯にわたって追求されていたものであったろう。1900年、パリ万国博覧会に出品された松園の絵は《母子》であったが、これは別の図柄であり、43年の《朝》も、子に朝顔を見せる母親が描かれている。ちなみに、嗣子信太郎(松篁)が生まれたのは02年で、その幼時のスケッチなども残されている。
この絵の描かれた34年は、2月に母仲子が86歳で世を去り、精神的支えとなっていた母への追悼の気持ちも深かったことと思われる。松園は、生まれ育った京都の市民文化の伝統に支えられた高い趣味を示す着物姿の母子を、夏のすだれの前にすずやかに描きだしている。初盆の気持もあったのかもしれない。母親をしのばせるお歯黒と青眉の婦人は、緑色の縞の着物に髪や黒の帯も形よく配されて、愛情のみならず、知性を秘めた横顔で、一種の崇高さまでに高められている。第15回帝展出品作。