下北の能舞
しもきたののうまい
概要
これは下北郡東通村を中心に下北半島の各地で盛んに行われてきた獅子神楽の一つで、もとは山伏修験が伝えていたものである。
かつて霊場恐山【おそれざん】の修験山伏が旦那場(霞【かすみ】という)を祈祷してまわった折に舞っていたものが、後に各村々の農漁民の間に普及し、近年まで、東通村の各集落をはじめ近隣の市町村の二、三〇か所で行われてきており(大利【おおり】系、田屋【たや】系、鹿橋【ししばし】系の三つの師系がある)、地域の生活に密着したものとして今日に伝承されてきたものである。なお、能舞の名は菅江真澄【すがえますみ】の著書に言及されていることから、すでに江戸時代後期には一般的に使われていたものとみなされている。
青年会に加入した若者は十二月になると長老、師匠から厳しい舞の稽古等を受ける習わしであり、これが各地域における大切な成人教育の機会とされていた。正月の祝いに各所で舞のわざが競われるほか、新築祝、結婚式、年祝【としいわ】いなどにも舞われる。
舞の演目には祈祷のための「権現舞【ごんげんまい】」(獅子舞)、儀礼舞としての「鳥舞【とりまい】」「かご舞」「翁」「三番叟」「ばんがく」、武士舞としての「信夫【しのぶ】」「十番切【じゆうばんぎり】」「渡辺」「鈴木」「曽我兄弟」「鞍馬」「屋島」「巴御前【ともえごぜん】」、人間と鬼畜とが絡みあうストーリーの「鐘巻【かねまき】」「きつね舞」、道化舞(どけ舞と称す)の「蕨折【わらびおり】」「天女【てんによ】」「ねんず」「雀追【すずめおい】」「田植」「地蔵舞」「年始舞」「綱引」「出子助【でこすけ】」などがあり、そのつどこれらの中から何番かを選んで上演している。登場人物は後幕【うしろまく】をまくり揚げて出入りし、幕の後にはウタカケ(佐文立【さまだて】と称する詞章をうたう役)と笛がおり、舞台前方には太鼓が据えられ、その打ち手は登場人物と問答もする。また舞台上手には手平鉦【てびらがね】の打ち手数名が居並ぶ。上演の場所は能舞宿【のうまいやど】と称され、民家や集会所などがあてられる。
この能舞は、岩手、秋田、山形などの山伏神楽とも共通する中世風の語り物舞の諸番を持ち伝えており、かつて下北半島に殷賑をきわめた山伏系の神楽として、その由来や伝承形態、芸態等に芸能史上きわめて注目すべき点の多いものである。
よって重要無形民俗文化財に指定し、その保存を図ろうとするものである。
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国指定文化財等データベース(文化庁)