紙本金地著色泰西王侯図〈/六曲屏風〉
概要
ヨーロッパの王侯・武将を十二図に描く押絵貼屏風である。王侯たちは、すべて華美な宝飾のついた装束で武装し、概ね若い侍者を伴い、侍者よりもひとまわり大きな姿で、自然ないし古典建築を背景に、描かれる。特定の人物を描いたかどうかは明らかでなく、画中の紋章からオーストリア大公アルベール、原画となったと思われる銅版画からイスラエル王ダヴィデ、ローマ皇帝オットー、ウェスパスィアヌスなどが比定されるにとどまる。
近い形式の泰西王侯図には、ボストン美術館所蔵の六曲屏風一隻、群馬県・満福寺所蔵の二幅(重要文化財)などがあるが、十二図を数える本図は、最もよく制作当初の形式を伝えると思われ、貴重である。
人物の曲線的な姿態、優美な顔立ちや手つきは、他の初期洋風画同様、マニエリスム様式の影響を受けた特徴を示すが、人体のプロポーションや動きのあるポーズを比較的破綻なく描きこなしている点に、本図のすぐれた画技を認めることができる。
また、向かって右隻第二扇に描かれた楯に、「IHS」というイエズス会の会章が表されているのは、他の世俗的な主題を扱った初期洋風画に例がなく、この点で本図は、これらの絵画とイエズス会との関係を示唆する重要な資料といわねばならない。
なお、向かって右隻第六扇のカンテラを下げる従者の原画として『福者イグナチウス・ロヨラ伝』(一六一〇年刊)中の一図を考え、本図の制作時期を一六一〇年以降、とする説がある。この論拠はさらに検討を要しようが、他の銅版画の刊行年から、およそ一六一〇年代前半ころの作と推測することは可能であろう。
山形県・小沢家旧蔵。庄内藩主酒井家より下賜されたという伝承があった。明治三十年代まで六曲屏風一双の形状であったというが、その後はめくりの状態で伝えられた。戦後所在不明であったのを、一昨年長崎県が購入し、屏風に改装したものである。