春宵
しゅんしょう
概要
掛行燈がほんのりともっている春の宵。料亭の中庭をのぞむ廊下での一場面であろうか。駆け寄って耳打ちをする女性、その言葉を静かに受けとめる女性の、ゆとりのあるまなざし。着物の裾に雅やかな夜桜があり、ほの暗い庭に山吹の枝が静まる美しい春の宵を、上村松園はさらに突き抜けて、ひとの世と人生の中にある美を見つめている。女性美をとおして描かれるこの精神美こそ、松園芸術の独自性であり、芸術的カタルシスを与える所以ともなっている。松園61才の春に成るこの作品は、薫り高くもの憂い季節の風情に、ひとのこころの美しさを溶しこんでいる。