沼の落日
概要
明治九年、お雇い外国人の一人として来日したイタリア人の画家フォンタネージは、日本の洋画界に多大な功績を残した。
彼の滞在は二年にも満たないわずかな期間であったし、教えることになった学生たちは油絵を初めて扱うものがほとんどであったが、この有能な画家は、現在の美術大学でさえ教えないような高度な授業を展開した。
西洋の伝統的な絵画技法のみならず、絵画空間をいかに成立させていけばよいのか、まさに西洋の芸術思想史をも教授した。学生のなかには、浅井忠、五姓田義松、山本芳翠ら今日評価の高い洋画家が育っていったが、年齢制限のために学生となれなかった高橋由一も彼に教えを受けたことで作品が飛躍的に上達した。
本作品は夕日が木立に隠れようとする、まさにモノトーンの世界へと移り変わる風景である。この場面にふさわしく、茶褐色を基調にしたわずかな色数で描かれているが、なぜか複雑な色彩を感じさせる。そしてなによりも、力強くのびやかな筆触がこの作品の魅力である。 (田中善明)