紙本墨画檜原図 近衛信尹の賛がある 六曲屏風
しほんぼくがひばらず このえのぶただのさんがある ろっきょくびょうぶ
概要
水墨で檜林を描く6曲1隻の屏風に,寛永の三筆として知られる近衛信尹(1565~1614)が「初瀬山夕越え暮れてやどとへば(三輪の檜原に)秋かぜぞ吹く」という和歌を大書している。本図が伝来した禅林寺(永観堂)には,信尹の書が揮毫された「いろは歌屏風」6曲1隻があり,本図と1双とされてきたが,画面の紙継や金泥引きの状態,書の下絵となる水墨画の作風などが異なっていることから,本来別々の屏風であったものが,後世になって組み合わされたと考えられる。信尹は,屏風に直に大書する作例をいくつか残しているが,下絵の水墨画と融合して,和歌の世界を表現する例は本図のみである。また,和歌の「三輪の檜原に」をあえて書かず,絵が代わって表現する趣向や,賛を予定してモチーフが中央に寄せられた構図など,水墨画と書との計算し尽された関係は特筆に値する。檜林は,抑制の効いた筆致と墨の階調で巧みに表現されており,絵師の優れた技量がうかがえる。落款はなく,筆者は不詳であるが,長谷川等伯(1539~1610)とする説が提出されている。上質の絵画と書をあわせもち,近世初期の書,工芸,絵画の動向が深く絡み合う貴重な作例である。