一字宝塔法華経断簡(太秦切)
いちじほうとうほけきょうだんかん うずまさぎれ
概要
「法華経」は「妙法蓮華経」(みょうほうれんげきょう)ともいい、仏教の経典のひとつです。そこには釈迦が出家したのち、弟子たちに説いた教えが説かれています。法華経は6世紀半ば以降、仏教の伝来と同じころ日本に伝わったと考えられており、以後もっとも広く読まれ、また書写され続けた仏教経典です。平安時代後期、11世紀から12世紀ころには、法華経を単に書写するだけでなく、贅沢な紙を使って美しく飾った装飾経を制作することが、極楽往生を遂げるための功徳になると考えられました。
この法華経も、そうした願いをこめて作られたものと考えられます。紺色に染めた紙に、銀で罫線(けいせん)をひき、仏塔を1行あたり10基ずつ雲母(うんも)で摺(す)りあらわし、その仏塔の中に、法華経の経文を1文字ずつ、美しい金文字で記しています。法華経の一文字一文字が、仏と同じであるとみなし、仏塔の中に安置しているのです。たいへん手の込んだ仕上がりです。仏塔はやや見えにくくなっていますが、よく目をこらしてごらんください。
法華経は全部で28の章から構成されていますが、この作品は、そのうちの第8番目である「五百弟子授記品」(ごひゃくでしじゅきほん)の一部です。かつて京都・太秦(うずまさ)の地にある、広隆寺という歴史ある寺院に伝来していたことから、「太秦切」(うずまさぎれ)という別名があります。「切」とは、一部を切りとったものという意味です。