装飾法華経薬王品断簡
そうしょくほけきょうやくおうほんだんかん
概要
『法華経』薬王菩薩本事品第二十三を書写した装飾経の断簡。料紙には金銀の砂子、野毛、切箔、特大の裂箔を蒔き、界線に金の截金を置く。天地には遠山と蓮池が彩色され、多彩な装飾技法に平安時代12世紀の特徴が見られる。本品は紙継を跨がない25行分の断簡であり、諸家に分蔵される断簡の書写形態から、もとは『法華経』全二十八品を1巻ずつ書写した一品経形式の経巻であったことが判明する。一品経は貴族社会における法華講会の大規模化に伴って盛行し、わが国における法華経信仰の展開を知る上で重要な書写形態である。さらに絵画的・工芸的な観賞性に富む料紙を用いた装飾一品経は極めて貴重であり、「善美」と言い表わされる平安時代の信仰と美意識が凝縮された作例といえる。