群鴉
ぐんあ
概要
外遊中の作品は墨の濃淡で遠近をつけた上に、出先の限られた画材でささやかな色味を加え、 西洋の水彩画のように描かれた。 しかし、帰国後に描かれた本作は遠近法を完璧に手中のものとしながらも構図や平面的な色面構成からは、東洋的傾向の萌芽がみられる。 近景、 中景、遠景が墨で描かれるが、山々は平面的である。 しかしその筆跡や濃淡が山々の木々の茂みを想像させ、 粒子感のある鮮やかな群青が山の表情に深みを与えている。 白い余白に描かれた鴉は、晩秋の夕暮れ、群れとなってねぐらに帰るところであろうか。山々の静寂のなかに、鴉の鳴き声とざわめきが聞こえてきそうな情緒ある作品である。