若きカフカス人
概要
中原悌二郎(1888~1921)は、明治後期から大正期に至る彫刻史上、萩原守衛や戸張孤雁らとともに、忘れることのできない存在であり、掲載の「若きカフカフ人」は、悌二郎の最もよく知られた作品である。
彼は、北海道釧路の生まれで、最初は、画家を志して上京したが、20歳の頃から萩原守衛と親交を結び、ロダンや守衛にひかれて、守衛の死後、彫刻に転じた。大正5年からは、戸張孤雁と相前後して日本美術院研究所彫刻部に入り、以後32歳で没するまで、院展を主要な活躍の場としていた。
「若きカフカス人」は、大正8年夏、来日していた漂泊のロシア人ニンツアをモデルに、親交のあった中村彝のアトリエで制作され、第6回院展に出品された作品である。本像では、細部の表現にこだわらず、力強い肉づけが的確に施されており、モデルの魁偉な容貌も相まって、見る者をとらえて離さない、存在感豊かな作品となっている。
悌二郎は、萩原守衛没後、モデルの内面性までも表出しようとするロダン風の彫刻を我国に定着させようと奮闘した作家の一人であった。 彼は、短かい生涯のうちに10余点の作品しか遺さなかったが、「若きカフカス人」を初めとするそれらの作品は、大正期の彫刻の一典型を示している。(毛利伊知郎)