三瓶小豆原埋没林
さんべあずきはらまいぼつりん
概要
島根県大田市三瓶町小豆原地区は、活火山である三瓶山の北麓に位置する。昭和58年小豆原地区で土地改良事業が実施された。その際の写真から埋没木の存在が明らかになった。平成2年から確認調査が実施され、聞き取り調査、ボーリング調査、地中レーダー探査が実施されたが平成8年まで埋没木は発見できなかった。
本格的な調査が平成10年度から始まり、同年11月に直立したスギの埋没木が、水田下1から2mのところから発見された。調査は平成14年度まで継続され、多数の倒木や小径木と共に直立した大径木32本を含む、スギを中心とした埋没林であることが明らかになった。また、樹種の特定、ボーリングコアからの花粉分析、年輪調査などが平行して実施された。炭素年代測定法により、この三瓶小豆原埋没林は、今から3,500年前の三瓶火山の噴火活動に伴って形成されたことなどが明らかになってきた。
三瓶小豆原の埋没林は、従来多くの地域で知られているような根株や倒木の埋没林ではなく、スギを主体とする直立した樹幹の根本から10数メートルの高さまでが、そのままの状態で保存されている。スギは直径150cm、高さ50mに達し、樹齢500年を越えたと考えられている。この埋没林は、今から約3,500年前、縄文時代後期の森林の姿をそのままにとどめており、国内はもとより世界的にも希な埋没林であるといえる。森林を構成する樹木の多くはスギであるが、トチノキ、ナラ類、カシ類、シイなど他の樹種も混生しており、当時の表土(林床の土壌)も保存されている。この土壌中には植物の葉や草、種実、花粉だけでなく昆虫遺体なども含まれており、まさに縄文時代後期のタイムカプセルといえる。周辺の縄文遺跡からはスギ材を用いた丸木舟や櫂が発掘されており、こうした素材の供給源を考察する上でも貴重である。
埋没林の林床土壌、つまり当時の地表は、土石流堆積物に覆われ、さらにその上に火砕流堆積物が重なっている。立木には樹皮が存在し、形成層も虫害や菌糸の害を受けていない。このことは埋没林が非常に急速に埋積されたことを物語っており、火砕流堆積物の直下にある土石流堆積物の分布は、谷の下流から遡上したことを示している。火砕流や土石流の流下エネルギーは非常に大きく、森林などを破壊しながら流下するため、その堆積物によって埋積されたいわゆる埋没林は、ほとんどの例が倒木群である。この埋没林が倒壊を免れたのは、三瓶山から流れ下った土石流や火砕流の主要な谷筋から逸れていたためと考えられる。土石流や火砕流の堆積物の中に埋積しているにもかかわらず、倒壊しなかったという事実も極めて異例である。
年輪の分析によると、埋没林を構成するスギは全て同じ年の成長停止期間中(秋から翌年の春)に枯死しているが、周辺に分布する倒木群には埋没林を構成する立木群より2年早く枯死したものがあり、火山活動が数年間にわたったことを示唆する。このような現象を引き起こしたと思われる土石流と火砕流の発生と堆積の過程を、埋没林の成因解明の中で明らかにすることは、三瓶火山の活動史を解明し、災害予測地図(ハザードマップ)の作成にも貴重な情報を提供するものとなり、国民を火山災害から守ることにも貢献する。
三瓶小豆原埋没林は、平成15年5月から、「三瓶小豆原埋没林公園」として公開され、直立した埋没林を目の当たりにすることができる。火山国である我が国を代表する自然現象を現すものとして、天然記念物に指定し保存を図ろうとするものである。