慈円筆 懐紙
じえんそうじょうひつ かいし
概要
慈円(1155~1225)は鎌倉時代初期の天台宗の僧で、天台座主に四度も任命されるなど、当時を代表する僧のひとりである。父は関白藤原忠通。九条兼実は兄にあたる。独自の歴史観から『愚管抄』を著したことでも知られるが、歌人としても名高く、『新古今集』など歴代の勅撰集に多くの歌が収められ、家集『拾玉集』も残されている。
この懐紙は、報恩会のあとの和歌会で詠んだ和歌2首を記したもの。報恩会は毎年12月に比叡山でおこなわれる舎利供養の法会で、後宴に和歌会を催し、『法華経』と冬季をテーマに2首の和歌を詠み進めることが恒例になっていた。この懐紙の和歌は、『法華経』の寿量品と、雪中懐旧がテーマになっている。速筆ながら筆力があり、高雅な趣をもっている。もとは桂宮家に伝来した。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.309, no.142.