紅地花入蜀江模様厚板
べにじはないりしょっこうもようあついた
概要
加賀藩主前田家に伝来した能装束の一領である。蜀江文は中国から伝わったが、この厚板では蜀江文の交点に菊紋が、内側に和様の梅、椿、桜、牡丹、鉄線菊の花が表されている。紅綾地に各種色糸で駒繍、相良繍、渡し繍、刺し縫等の刺繍技法を駆使して表され、地に金駒縫を多用する等、近世の能装束では技法的に類例を見ない異色の厚板である。高度な技術と膨大な手間をかけたもので、大名家ならではの精緻で完成度の高い仕上りとなっている。
前田家独特の貼札や畳紙が附属し、裏地の背の貼札には「貴/厚板着附十七」、畳紙には「文化七年十二月/御厚板/唐花ノ/惣縫」等の墨書がある。文化7年(1810)は、現存する前田家伝来の能装束では早い時期に当たり、12代藩主・前田斉広の命で新調されたと考えられる。制作年代が明らかで、芸能資料としてだけでなく、工芸資料としても貴重である。