不動明王立像
ふどうみょうおうりゅうぞう
概要
仏教では、さまざまな名前、姿や形、役割をもった仏たちが登場します。明王とは 「知恵と呪文の王者」という意味です。仏教の一種である「密教」(みっきょう)では、「大日如来」(だいにちにょらい)という仏が、宇宙の中心的な存在と考えられました。明王は、その大日如来の化身で、怒りの表情や威嚇(いかく)するような姿かたちを示すことで、より強く仏教の信仰をうながす役割を果たします。ですので、明王には怖い顔をしたり、体の色が赤や青であったり、武器を持つものが多いのです。その代表格が不動明王です。不動明王は、日本では平安時代9世紀以降に信仰され、彫像や絵画も数多くの名作が今に伝わっています。
この像は、不動明王(ふどうみょうおう)です。ヒノキの材を彫って形をつくり、表面に彩色をしています。右肩をいからせ、右足に体重をあずけて、力のこもったポーズをとります。 右手には剣を持ち、左手には「羂索」(けんさく)というロープを下げています。これらは敵を倒すための武器ではなく、剣で人々の煩悩(ぼんのう)を切り裂き、羂索で人々を救いあげることを意味しています。不動明王の基本的な姿かたちは大きく2つあります。一つは、頭髪は「総髪」(そうはつ)というオールバックで、結わえた毛先を左肩に垂らし、両目を見開き、上の歯で下唇を噛む姿です。この像はもう一つの形式で、頭は巻髪(まきがみ)で、結わえた毛先を左肩に垂らし、左目をしかめ、唇の上下に牙をのぞかせています。顔の造りが中央にまとまり、表情もややおとなしいことや、衣(ころも)の線が整っていることなど、洗練された趣きがあります。一方で、内部はくり抜いて空洞にしますが、頭と体の中心を含む体幹部を一本の木材から彫り出す構造や、下半身の重たげな肉づきなど、古い様式も残しています 。