百物語・さらやしき
ひゃくものがたり
概要
この作品は、江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎による「百物語」という木版画のシリーズの1枚です。百物語とは、江戸時代に流行した遊びで、夜中に数人で集まり、交代で怪談話をします。100本の蝋燭を1話ごとに消し、最後の蝋燭が消えたら怪異現象が起こるというものです。シリーズ名からして100枚を目指したのでしょうが、現在確認されているのは5枚のみです。
井戸から蛇のような長い首をのぞかせた、青白い横顔。曲がりくねった首かと思ったものは、実はお皿を何枚も連ねてあらわされています。お皿に張り付くように伸びた黒髪が恐ろしげです。「井戸」「皿」というキーワードから、これが何の絵か推測できた方はいるでしょうか。そう、これは「さらやしき」をモチーフにした作品です。「さらやしき」は、浄瑠璃の「播州皿屋敷(ばんしゅうさらやしき)」という演目から広まった怪談話です。主人が大切にしていた皿を割ってしまったお菊という女性の奉公人は、古井戸に投げ込まれてしまいます。夜になると、死んだはずのお菊の霊が井戸からあらわれ、1枚、2枚と皿を数える、という物語です。
こわい話を描きながらも、表現はどこかユーモラスで、お菊が口から吐く霊気は、煙草の煙かはたまたため息のようです。