塵芥集
じんかいしゅう
概要
『塵芥集』は伊達家一四代稙宗【たねむね】が天文五年(一五三六)四月十四日に制定した分国法である。
書名の「塵芥」の意味は、世事万般の事項を規定した、和光同塵という吉田兼倶の唯一神道に由来する、謙譲と解するなどの諸説があるが、定まってはいない。
稙宗は、法令を制定するに当たって、第一条に神社、巻末に起請文を置く構成など、体裁を武家法の始である貞永式目に倣っている。
内容は、一七一か条からなり、第一条から七条まで神社、第八条から十五条まで寺院、第十六条から七十五条まで殺害、盗賊等の刑事法、第七十六条から九十一条まで土地法、第九十二条から一七一条まで売買、貸借、質入、婚姻、損害賠償等の規定をすこぶる周密に挙げている。特に刑事法が全条文の約三分の一を占め、他の分国法と比較して詳細を極めている点に特徴がある。
本書の体裁は、藍地丸文繋唐花文金襴後補表紙を装した袋綴装冊子本で、題簽「塵芥集」が付けられ、五九丁からなる。本文は五六丁からなり、半葉およそ九行、一行二二字前後で書写されている。前遊紙一丁に「塵芥集」と首題がある。前文は一丁(表)、次に条目が五二丁(表)まで書き上げられている。五二丁(裏)に稙宗の花押があり、続けて伊達家評定衆起請文が五六丁(裏)まで付されている。巻末に後遊紙二丁(後補、斐紙)の一丁に伊達綱村の識語がある。
起請文に連署する一一人のうち、現状では国分左衛門尉景広、中野上野介親時、冨塚近江守仲綱、浜田伊豆守宗景、牧野紀伊守景仲、牧野安芸守宗興の六人の花押が確認できる。いずれも筆跡に力がなく同筆と認められる。稙宗花押についても、花押形は天文五年ころに間違いないものではあるが、筆運がなく均等に墨がついていることから、花押印と認められる。
書写年代については、①第一条に「志んしやの事」の「志」と「し」に濁点があり、戦国時代に用いられる三点符を使用している、②花押印とはいえ天文ころの特徴が認められ、書風等を勘案すると、天文五年以降のごく近いころに書写されたものであると考えられる。
本書には、稙宗署名の右脇に擦り消した痕があり、一部に「門」の字が確認でき、臣下の名前であった可能性がある。伝来も、巻末の伊達綱村の識語に延宝七年(一六七九)村田親重から献上されたとある。そうなると、本書は家臣に配布するために制作された写本と想定される。
本書は、分国法の中で条目の最も多く整備されたもので、伊達稙宗による奥州支配を具体的に明らかにする『塵芥集』の最古写本として価値が高い。
所蔵館のウェブサイトで見る
国指定文化財等データベース(文化庁)