赤羽根大師のエノキ
あかばねたいしのえのき
概要
エノキは暖温帯を中心に生育する落葉高木で、青森県南西部以南の日本各地(本州・四国・九州)と、朝鮮・中国中部に分布する。日当たりのよい適潤地によく生育し、沿海地に多く見られ、広く枝を張りよく分枝する。果実は径6mmほどの球形の核果で、9月頃紅褐色に熟し、甘味がある。小鳥類の餌になるとともに、かつては子供が好んで食べていたといわれている。
エノキの生育域は人間の活動域と大きく重なっており、万葉集にも記録があるほど古くから人々に親しまれ、伝説・いわれなどが多い樹木である。各地で一里塚に植え道標とされたほか、街道沿いや村境などにも植えられた。地方によっては、墓標の樹として、あるいは家の門口の樹木として植栽されている例も多い。また、エノキの実は俳句で季をなすものとなっている。
赤羽根大師のエノキは一宇村北部で、村役場のある中心部から約1km離れた、標高約500mの地である。生育地は西向きの小さな尾根の突端に位置し、東側が尾根上部の緩斜面となり、西側は急に落ち込んでいる。この地域は地形が急峻で、造林地が多いものの、点々と様々な樹種の巨木が残されている。対象樹木もそのような中の1本で、樹高18m、幹周8.7mに達するエノキの巨木で、樹勢は旺盛である。3m程の高さから分枝し、東西方向に25m、南北方向に20mと大きく枝を広げている。尾根に大きく枝を広げた樹形は良好であり、樹幹は筋骨の盛り上がった巨象の脚のような感と相まって、全体として古木の観を示している。この地域では古くから知られ親しまれており、近年、我が国最大のエノキであることも明らかになった。
本樹木は地域のシンボルであり、すぐ脇には赤羽根大師堂が建てられ、地域住民が集まる場となっている。この赤羽根大師堂は寛政4年(1792)開基で、蔭総氏子によって建てられ、かつては毎月20日に集まり念仏を唱え通夜をしたとのことである。
赤羽根大師のエノキは最大級に成長したエノキとして大変貴重であり、地域のシンボルとして親しまれ大切にされてきた。よって、ここに天然記念物として指定し一層の保護を図ろうとするものである。