千手観音像・木造観音立像
せんじゅかんのんぞう・もくぞうかんのんりゅうぞう
概要
千手観音は変化観音(へんげかんのん)の一つで、詳しくは千手千眼観自在菩薩といい、慈悲の広大さを千の手と千の目で表す。本図は、木彫仏の像内に本格的な仏画が納入された珍しい例として有名な作品である。一緒に伝わっている木像も、一部が欠損しながらもとは十一面観音であったと推定され、平安時代末期の作とみなされるが、画像はそれより少し遡る時期のものかと思われる。比較的小品であるが、像はもとより台座と天蓋の荘厳も備わり、堂堂とした風格を示している。彩色は赤と緑の対比を基調としており、金銀箔を混えた諸色を細やかに配しつつあまり巧緻には走らぬ大らかさがある。多数の手はまるで光背の一部をなす様にきれいな円形でまとめられて、像容の異様さを抑えている。経軌に従った各種の持物のうち、武器類の大半は、下描であたりをつけながら、彩色段階では恐らく意識して省略し、また腹前の鉢を漆塗の什器風に表すなどの要素も、個人的に親しく礼拝するのにふさわしいであろうと思われる作風を形成している。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.310-311, no.149.