盲亀
もうき
概要
作者は京都の陶芸家・八木一艸の長男として生まれました。京都市立美術学校(現京都市立芸術大学)彫刻科を卒業後,陶芸を学びました。昭和23年若い陶芸家達で走泥社(そうでいしゃ)というグループを結成しました。陶芸の既成概念に捉われない新しい作陶を探求するうち,粘土という素材と陶芸の工程に立脚しつつ,実用性を離れて精神を表出する陶芸の表現領域を開拓し,これらの作品は前衛陶芸・オブジェ焼などと呼ばれました。
本作は,しわが寄ったように粘土ひもが押しつぶされ,黒く鈍い光沢を放っています。粘土ひもは粘土を成形する際の最も原初的な形で,土にこだわる作者が好んで用いました。一方,作者創案の黒陶(こくとう)は低い温度で焼くため変形・収縮が少なく,黒い表面が火跡を隠します。土ならではの造形が焼成の痕跡をまぬかれて,軟らかな質感を留めています。題名は盲亀浮木(千載一遇の意)からの引用で,自己の表現をやっと発見した作者の確信を表しています。