鍬形石
くわがたいし
概要
3世紀に始まる古墳時代には、石を材料にした祭祀用の道具、石製品(せきせいひん)が作られました。この作品は、腕輪の形をした石製品です。土を耕す鍬(くわ)の形に似ているので鍬形石(くわがたいし)といいますが、実は、貝で作られた腕輪をまねて作ったものです。古墳時代に先行する弥生時代から、九州北部の権力者たちは、沖縄や奄美大島などの南の海でとれた貝を腕輪にして珍重しました。使われたのは、ゴホウラ貝という大きさが20センチほどの巻貝で、これを輪切りにして腕輪にし、権力の象徴としました。続く古墳時代、政治の中心であったヤマトの王たちは、ゴホウラ貝の腕輪の独特な形を碧玉(へきぎょく)という石で再現し、各地の王に配りました。碧玉は深緑色をしていて硬く、磨くとつるつるした光沢が出るのが特徴です。
ただしこれらは実用の腕輪ではなく、古墳におさめる副葬品(ふくそうひん)として作られました。九州の北部で、権力者がゴホウラ貝の腕輪を身につけたのは、人は死後に南の海にいくという思想があったからかもしれません。南の海でとれた貝の腕輪には、特別な思いがあったのでしょう。ヤマトの王たちも、貝の腕輪をまねることで、この思想を引き継いでいたのかもしれません。