鼉龍鏡
だりゅうきょう
概要
中国製の鏡をモデルにして日本で作られた銅鏡です。鏡は悪いものを祓うと信じられていたことから、祭祀に使われたり、古墳の副葬(ふくそう)、つまりお墓の中に被葬者にそえて埋葬されたりしました。また、そのサイズにより権力の大きさを象徴するものでもありました。この鏡は出土地がよくわかっていないのですが、直径38.4cmと非常に大きいので、それに見合う大きな古墳に、大きな権力を持つ者のために副葬されていたのでしょう。
皆さんに見えているのは、姿を映す鏡面(きょうめん)の裏側です。中央にある、ひもを通す鈕(ちゅう)の周りに、丸くなったイモムシのようなものが4つ見えませんか。これがタイトルの由来である鼉龍(だりゅう)で、中国の空想上の獣です。実は、その鼉龍の頭の部分には、中国の神様を表した半身像が重なっています。さらに、鼉龍は口に棒のようなものをくわえているという、非常に複雑な文様です。
実は、もともとの中国の鏡では、鼉龍と神様の図像が独立して描かれていました。また、これらの文様を取り囲む帯状の部分には、田んぼの「田」の形をした模様が8つ描かれ、それぞれの区画に「天・王・日・月(てん・おう・にち・げつ)」など漢字も書かれていたのですが、この鏡ではすべて丸のような図像に変化してしまっています。これは、図像の元になった中国の思想や世界観が日本で定着しなかったためです。加えて、当時の日本ではほとんどの人は文字を読むことができませんでした。そのため、描き写した図像に混乱が見られるのです。しかし、鏡としての完成度は高く、このような大きな鏡に複雑な文様を鮮明に表した、当時の日本の工人達の高い技術を物語っています。