名所江戸百景・駒形堂吾嬬橋
概要
江戸時代の絵師、歌川広重の最晩年の代表作「名所江戸百景」シリーズのうちの一枚です。シリーズは目録を含め全120枚。のちに4つの季節に分類されますが、この作品は夏の一枚とされています。そのポイントは、画面の上を飛ぶ初夏の鳥、ホトトギスでしょう。
ホトトギスが横切る空は、上方がぼかし摺(ず)りでどんよりと暗く表現され、天気の急変を告げています。空に描かれた線をよく見ると、そこに雨が降ってきたことがわかります。ホトトギスの周りにぼかされた墨とあいまって、梅雨空(つゆぞら)の雰囲気です。
ここは隅田川。西側の岸から東を眺め、左手、上流にかかる橋は吾妻橋(あづまばし)です。左の隅に描かれている屋根は、馬頭観音を祀る駒形堂です。当時の江戸の人々にとって「駒形堂」と「ホトトギス」の組み合わせは、吉原の遊女、高尾太夫(たかおだゆう)が詠んだ「君はいま駒形あたりほととぎす」という有名な句を連想させるものでした。
名所江戸百景の特徴でもある縦位置の構図、大きく描かれた駒形堂や赤い旗と、遠景の橋や船などの、モチーフの大小の対比で遠近を感じさせる表現も印象的な作品です。