梅花双雀図軸
ばいかそうじゃくずじく
概要
あらゆる花に先駆けて、寒い冬のうちに開花する梅、そして、栄誉ある称号である「爵」(しゃく)と音(おん)が通じることから、立身出世というおめでたい意味をもつ雀は、古来、花鳥画の人気主題でした。この作品では、優美な弧を描く梅の枝に包まれるように、2羽の雀が体を向き合わせて羽を休めています。奥の1羽のくちばしはやや開いており、言葉を発しているような愛らしさがあります。
梅の花びらは、細く柔らかい墨線でかたどられ、淡い白色と桃色が重ねられます。オシベやガクには薄い黄色や緑、臙脂(えんじ)色が点じられます。雀は、墨と白の細い線で羽の毛が一本一本丁寧に引かれ、こげ茶や赤茶、黄土色などで模様が繊細に表わされています。目には青緑色がうすく塗られているようです。いずれも南宋時代の花鳥画に典型的な、非常に精緻な表現といえます。南宋時代の宮廷画家であった馬麟(ばりん)が描いたという伝承は、その意味で納得できるものでしょう。ただ、花や雀の表現に比べ、梅の枝の墨線は強く太く、大画面にふさわしい描き方であることも指摘されています。このため、この作品には、梅の枝先でなく樹木全体を描くような大きな作品から、部分を切り取って表装したものではないかという説があります。
画面右上には、15世紀前半、室町幕府の第6代将軍として在位した足利義教(あしかがよしのり)が所蔵したことを示す印がおされています。東京の五島美術館(ごとうびじゅつかん)には、この図とほぼ同じ大きさで、左上に同じ印をもつ作品が所蔵されており、こちらは梅に2羽のジョウビタキが表わされています。現在、東京国立博物館と五島美術館にわかれて所蔵されている2幅は、もともと1対で足利将軍家のコレクションにあった、由緒ある品であることがわかります。