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河内屋可正関係資料

かわちやかしょうかんけいしりょう

概要

河内屋可正関係資料

かわちやかしょうかんけいしりょう

文書・書籍 / 江戸 / 近畿

江戸

9点

重文指定年月日:20200930
国宝指定年月日:
登録年月日:

国宝・重要文化財(美術品)

河(かわ)内(ち)屋(や)可(か)正(しよう)(本名壷井五兵衛、一六三六~一七一三)は、河内国石川郡大ケ塚(だいがつか)(現大阪府南河内郡河南町大ヶ塚)の上層農民で、農業と酒造業を営む傍ら、読書に励み、謡や能、俳諧・和歌などに親しんだ。本資料は、可正自筆の記録六点を中心とする九点の史料である。
 可正は、家の没落を防ぎ、心を正しくもつ拠り所として、自身の見聞や処世訓などから大ケ塚の由来や家々の興亡を「〔河内屋可正旧記〕」五冊に書き記した。各冊とも半紙を料紙とする横帳を複数冊合綴したもので、丁寧な筆記態度が看取され清書本とみられる。その内容には江戸時代前期に出版された『太平記評判秘伝理尽鈔』など『太平記』の講釈書、仮名草子の『堪忍記』(浅井了意著、万治二年(一六五九)刊行)などの影響が看取される。楠木正成が理想的な統治者であると述べて幾度も言及する点や、大ケ塚における歴史の叙述にあたり事実を述べた後に「評に云」と記して自身の考えを記す叙述形式は『太平記』の講釈書と類似する。他方、「〔河内屋可正旧記〕」の執筆と同時並行で、可正が見聞したり、読書によって得た知見や自身の考えを当座の覚として書き残した記録が「〔可正雑記〕」一冊である。折紙綴葉装の冊子で、半紙や杉原紙などを料紙とするが反故紙を利用する丁も多くみられる。和歌など文芸に係る記述が充実する点に特色がある。以上、可正の記録六点は、通俗道徳的な民衆思想が形成される過程を窺わせ、一定の蔵書を有し、読書体験によって教養を高め、書物を残すまでになった村落の知識人のありようを伝える。
 この他、可正の子や孫が記した「〔河内屋年代記〕」二冊がある。特に可正の子清左衛門(可晴)や孫の小三郎を中心に書き記した一冊は二三七丁と大部である。この記録は、可晴が自らの家や大ケ塚の歴史を記し、享保十年(一七二五)十月に小三郎に引き継いだことが知られ、可正の考え方がある程度子や孫に継承されていることが窺える。「壷井家系図」一巻は、壷井家や大ケ塚の歴史を考えるうえで参考となり、可正が「大ケ塚来由記」(「〔河内屋可正旧記〕」)・「可正手記」(「〔可正雑記〕」)を、可晴が「年代記」(「〔河内屋年代記〕」)を著したと記す。
 本資料は、商業出版が確立した江戸時代前期から中期における上層農民の生活意識、文化受容、ひいては村落における知のありようを窺うことができる稀有な記録である。同時期に上層農民が個人で著した記録としては群を抜いて豊富な内容を有するもので、同時代の文化史、思想史等の研究上に価値が高い。

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