成女身
概要
橋本平八は、三重県度会郡朝熊(現・伊勢市朝熊町)出身の彫刻家。1919(大正8)年に上京して佐藤朝山に入門し、1922(大正11)年より日本美術院展を舞台に活躍した。1926(大正15)年からは朝熊に拠点を移して制作を行い、古今東西の文芸や宗教に広く学びつつ、身の回りの自然に着想を得た独自の作品を展開した。
本作は第13回日本美術院展の出品作。一本の桂の木から等身大の女性像を彫り出している。作家は本作について「化して女身となるの意」、「偏円幾何形態を基調とする立体の構成についての試み」[橋本平八『純粋彫刻論』昭森社、1942年、21頁]と記している。解釈が難しいが、現実の女性の身体を写すのではなく、何か精神的なものを女性の姿で表したということだろう。また、制作前後のデッサンから、作者が扁円形のシルエットを意識して制作したことがうかがえる。謎めいた言葉とこわばった女性の表情によって、観る者を作家独自の思想世界に引き込む作品である。