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伊勢物語色紙 伝俵屋宗達筆 第六十段 花橘

いせものがたりしきし でんたわらやそうたつひつ だいろくじゅうだん はなたちばな

概要

伊勢物語色紙 伝俵屋宗達筆 第六十段 花橘

いせものがたりしきし でんたわらやそうたつひつ だいろくじゅうだん はなたちばな

絵画 / 江戸

伝俵屋宗達

江戸時代

24.3×20.9

1幅

文化庁分室 東京都台東区上野公園13-9

国(文化庁)

本作品は、『伊勢物語』という歌物語(全125段)の第六十段を典拠とし、その内容を色紙という方形の台紙に描いたものである。『伊勢物語』は、ある貴族の一生を和歌と短い文章によって表したもので、遅くとも11世紀初めには成立していたと考えられている。第六十段は、別の男に従って地方に下った昔の妻に主人公が会いに行ったところ、女は昔を思い出し、尼になって山に入るという内容である。画面中央には、主人公が男の家で昔の妻と再会する劇的な場面が表され、画面右上には、出家を暗示する山を背景に、物語の結末を示す第六十段の末尾の章句が記される。
作者は、17世紀初めに活躍した俵屋宗達(生没年不詳)とその工房によるものと考えられている。俵屋宗達は、墨や絵の具の滲みを生かしたたらし込みという独特の技法を用いた画家で、古典的な題材を大胆な画面構成によって描き、新たな画風を確立した。本作では、主人公と女を障子を隔てた画面の端に対角線上に配置して二人の心理的な距離を表し、余白の金雲の間に山並を配して物語の結末を示すという、小画面を巧みに生かした構図が見事である。女の表情も、伝統的な引目鉤鼻に描きながら、わずかに開いた口元により、動揺する女の心理をよく表している。物語の内容や情緒性に踏み込んで独自の図様を創出している点は高く評価されよう。
宗達工房が制作した伊勢物語色紙は現在59面が確認されている。それらは伝来の過程からいくつかのグループに分けられ、本作はそのうち岸家旧蔵の2枚のうちの1枚である。一時期、近代日本画の巨匠安田靭彦も本作を愛蔵したことが分かっている。

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