椿氏庭園
つばきしていえん
概要
旧津和野藩の城下町において,近代以降に完成した町家の庭園のひとつ。近世以来の香油・精蝋などの生業を受け継ぐ商家であり,その建築は嘉永6年(1853)の大火直後の改築によるものと見られ,庭園も同様の時期に作庭されたものと考えられる。庭園は,表玄関から矩折れに延びる通路の先に位置し,座敷から向かって右手に主屋から連なる建築,左手に厠へと通ずる濡れ縁などに挟まれ,奥に土蔵が控える小規模な坪庭の様式を持つ。狭隘な空間に飛石(とびいし)・燈(とう)籠(ろう)・手水(ちょうず)鉢(ばち)・蹲踞(つくばい)など多様な景物を配置した椿氏庭園には,近世から近代の坪庭の様式に共通する意匠・構成が見られる。近代津和野における造園文化の発展に寄与した意義深い事例である。