稲荷原遺跡出土縄文時代早期土器及び石器
いなりはらいせきしゅつどじょうもんじだいそうきどきおよびせっき
概要
本資料は、さいたま市見沼区春岡3丁目地内に所在する稲荷原遺跡において、昭和39年(1964年)に大宮市教育委員会(当時)が2次にわたる発掘調査を行った際に出土した縄文時代早期、中期、後期土器、及び土師器、須恵器など約2,300点を超える資料のうち、過半数を占める縄文時代早期の土器群、及びそれらに伴って出土した石器群である。
縄文時代早期の土器群は、撚糸文系土器、沈線文系土器及び押型文系土器の3群からなる。
撚糸文系土器は、全て深鉢形土器の破片で、部位は口縁部、胴部及び底部である。この中でも最も特徴的な土器は、口縁部が無文で、以下に粒の粗い撚糸文が浅く施文される一群である。これらの撚糸文系土器は、施文文様、製作技法等の詳細な観察に加え、東関東地域に分布域を持つ「花輪台(はなわだい)式土器」及び南関東地域に主な分布域を持つ「大浦山(おおうらやま)式土器」等周辺地域の資料との比較検討の後、縄文時代早期撚糸文系土器終末期に位置付けられる特徴的な資料として、「稲荷原式」という土器型式名が提唱された。
沈線文系土器は、三戸式の範疇に含まれ、本資料をもってその初期段階に位置する一群として、「稲荷原型三戸式土器」とも呼称されている。
押型文系土器は、縦方向、横方向に施文された山形文が施文される破片が多数を占め、他に楕円文、格子目文が施文される土器も含まれる。また、一点のみであるが、重層山形文を特徴とする日計式土器が報告されている。
石器は、石鏃と剥片石器である。石鏃は、薄い剥片を加工した小型の三角形鏃もある。石材は、黒曜石が圧倒的で、他に硅岩を素材とするものがあ…