花鳥蒔絵螺鈿聖龕
かちょうまきえらでんせいがん
作品概要
聖画を収納する聖龕で、桃山時代に我が国からヨーロッパへ向けて輸出された漆器の一つである。
我が国では、十六世紀後期から十七世紀前期にかけて、ポルトガルを中心とするいわゆる南蛮交易において、箪笥や櫃などの調度品を主に、数多くの輸出用漆器が製作された。これらは、南蛮様式の輸出漆器で、いわゆる南蛮漆器と呼ばれる。これら南蛮漆器の特色は、螺鈿を多用することや幾何学文の縁取りによって装飾面を明確に区画すること、そしてその区画内部に花鳥文などを充填する表現を施すことなどが挙げられる。これらの額縁的な明確な区画、空間充填的な装飾は、インドやイスラムの装飾様式の影響を受けたものとされ、当時の国際交易の有様を物語っているといえよう。
我が国における輸出漆器の製作は、十六世紀半ば以降日本を訪れたキリスト教宣教師らによって、布教活動に不可欠な道具として祭儀具が注文されたことに始まると考えられている。祭儀具とは、聖餐式に用いる聖餅を納める聖餅箱や聖書を置くための書見台、聖画を納めるための聖龕などである。その製作の担い手は、京における漆工職人らを中心とした集団であったと思われ、蒔絵とともに螺鈿が多用され、花鳥文を充填的に配置する意匠が施された。これら我が国で製作された祭儀具は、宣教師たちの帰国に際して持ち帰られたものもあると思われる。また、それと同時期、あるいはやや遅れて、交易品として本国における注文を受けて輸出されたものも少なくない。
本件は、恐らく祭儀具として注文を受けて製作、輸出されたものと思われる。伝来は未詳ながら、近年里帰りしたもので、国内に現存…