蜆子和尚図
けんすおしょう
概要
司馬江漢による初期の油彩作品。画面上方に「Kens Paap」と記されているように、この絵の表面的な主題は、古来より禅宗系の水墨画などで描かれてきた蜆子和尚(中国宋代の奇僧でエビを食べて暮していた)です。
しかしその容貌は西洋人のそれであり、仏像のような印を両手で結ばせている点は、禁教後に描かれたキリシタンの聖人像に極めて似通っています。これら聖人像は像主に仏教的な持物や衣装をもたせることによって、本来の画題を隠蔽させていることが多く、江漢の「蜆子和尚図」でもその手法がそっくり継承されているようです。一方で江漢は聖パウロとおぼしき画像を所持していたことがあり(『江漢西遊日記』天明8年6月24日)、これも日本のキリシタンによる聖人像(当館蔵の「老師父像」の可能性あり)だったと推測されます。江漢はキリスト教そのものに対して深く共感したことはありませんが、天明年間(1781-89)末に油彩画を手掛け始めたころには、聖人像に見る前世紀の洋風表現には強い関心を抱き、これらを参考として作品を描いたのでしょう。
【江戸の絵画】