建物のある風景
概要
決して大きいとはいえない画面に、すばやい筆致で、逆光になった建物がとらえられている。
筆致の速度は、単に印象や感情をぶつけたものではない。支持体である板のかたさと応酬することで、絵具の色が光と空気に変容し、空間を開いていくのだ。左上から右下へ、手首をかえす動きを主体に、絵具は厚すぎず薄すぎず、板に応じ、反発し、板から自律した色の組織を編みあげるだろう。
下部の草むら、建物、空はそれぞれ、白および他の区画の色によってつながりあいながら、互いが互いを浮かびあがらせている。もっとも勢いが強く、色もあざやかな草の黄緑は、斜めの筆致を連ねて、空間を宙にもちあげる。
建物の紫は、逆光ゆえの光をふくみつつ、縦横の骨組みを画面に与えている。最後に空は、白を多く混ぜた不透明さによって、立ち上がった空間をおさえこんでいく。ただし、筆致の細かさゆえ、重すぎるにはいたらない。
強い風がぶつかりあって渦を巻くように、筆致の速度、板のかたさ、色彩と光が緊密に交渉しあい、現実の再現にも感情の表出にもとどまらない、絵というはかない幻影を、ひととき定着させているのだ。(石崎勝基)