『古代史』より「うるわしのナルキッソス」

版画  リトグラフ(石版画) / ヨーロッパ 

ドーミエ、オノレ (1808-1879)
1842年
リトグラフ・紙
33.2×24.6
額装

 ナルシシズムと聞けばすぐにうぬぼれや自己愛に変換できるほど、日本語にもなじみの深い単語である。その由来が鏡に映った姿を我と知らず、恋い焦がれたギリシャの美青年であることも、正確な典処は知らずとも、耳学問で仕入れた人は多いだろう。
 オヴィディウスの「変身物語」によれば、ナルシスには一途な思いをかけてくれるエコーという美少女がいたが、けなげな愛を無残に足げにしてしまう。神の怒りを買った美ぼうの若者は、罰として水に映った自らの姿を愛する運命となるのだ。もちろん、ナルシスの自ら容姿を誇る高慢さは、現代の「ナルシシズム」に通じるが、ここは愛についての悲しいすれ違いがある。
 エコーは口が災いして、話しかけられる最後の一言しか繰り返せない。ナルシスは真の愛を知らず、決して報われない空蝉の美に身をやつす。エコーは木霊の響きに、ナルシスは水仙の花に姿を変え、二人は結ばれることはない。ドーミエの版画では、お得意の皮肉におかしみと悲しさが全開になっているが、たとえば画面奥の洞くつからエコーの叫びを、手前のふちに水仙の芽生えを見るのは、少々ロマンチシズムが過ぎるであろうか。(生田ゆき)

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