幼学指南鈔(巻第七、第二十二中/)
ようがくしなんしょう
概要
『幼学指南鈔』は、国宝『秘府略【ひふりゃく】』に次いで古い平安時代に編纂された漢文の類書である。編者や成立の事情などを明らかにしない。意味分類のもとに、当時の代表的な文献である『毛詩』『礼記』『春秋』『説文』『史記』『漢書』『山海経』など、ことに『文選』を最多引用した漢籍の一大分類文集であり、唐代の類書『初学記』(三〇巻)を参考・基準にして、漢学者の漢文学習教材として編纂した性格がうかがわれる。現存する巻次によって、目録一巻、本文三〇巻の三一帖であったと考えられている。
『幼学指南鈔』は、本書の一連の古写本が現存するのみである。重要文化財の大東急記念文庫本(六帖)・東京国立博物館本(旧梅沢記念館本、一帖)・陽明文庫本(二帖)と重要美術品のお茶の水図書館本(二帖)、さらに台湾の故宮博物院本(楊守敬旧蔵本、一〇帖)が確認されている。
本書の体裁は粘葉装。料紙には雲母引の楮紙打紙を用い、押界を施している。首・尾題はない。本文は半葉七行、一行一七字前後に書写する。まず標目を掲げ、次に項目を示す。項目の説明は一字下げにて記す。標目上に朱の丸点が付されている。文中まま加筆、摺消訂正がある。説明の典拠となる本文を示しているが、国書を引かず、和訓も付していない。引用されている書目のなかには、今日佚書となっている逸文を伝えている。佚書として『語林』などが確認できる。
『巻第七』では「巻第七」と巻次を記し、次いで「人部一」と部名を掲げている。次に「美大夫」「美婦人」などの標目を記載している。同じく「人部二」の記載が続く。
『巻第廿二』は、表紙に「丗一冊之内」(右下)とある。「巻第廿二〈中〉」と巻次を記し、次いで「巧藝部〈下〉」と部名を掲げている。次に「射」「馭」などの項目を記載している。同じように「方術部」「火部下」の記載が続く。
二帖とも、巻末に「覺瑜」と墨書があり、本文とは別筆で伝領者名であると思われる。「覺瑜」は仁和寺真光院覚瑜法印(『仁和寺諸院家記』)で、平安時代後期の人物である。
本書は奥書がないものの、書風などから平安時代後期の書写と認められる。書写年代が撰述の年代とあまり隔たっておらず、原本の構成を知ることができるとともに稀覯の類書の古写本として貴重である。