物語類并注釈書
ものがたりならびにちゅうしゃくしょ
概要
冷泉家に襲蔵する典籍のうち、中世を中心とした物語類并注釈書を一括するものである。
大きく分けると、物語類と、古来より愛読された『伊勢物語』『源氏物語』の三部からなる。
物語類の主なものには、中世の擬古物語『いはでしのぶ巻四』の一帖がある。巻四のみで前を少し欠くが、今まで抜書しか知られなかったものである。建長三年(一二五一)までに成立したといわれ、本帖は成立時期に近い鎌倉時代中期ころの古写本である。西行に仮託される説話集『撰集抄』は巻一・二だけの一冊であるが、冷泉為秀の和歌の門弟であった今川了俊の書写になる。『唐物語』は中国説話を翻案したもので、文明十一年(一四七九)冷泉為広(一四五〇~一五二六)の書写になる。一般には藤原成範作とするが、奥書によれば作者を一条兼良【かねら】とする。阿仏尼の作として有名な『十六夜日記』は筆跡等からみて安土桃山時代の写本で、流布本系の最古写本として貴重である。他に『徒然草』の享禄本などがある。
現在多くの定本に用いられている『伊勢物語』は、天福二年(一二三四)に藤原定家(一一六二~一二四一)が孫姫為子に与えたいわゆる天福本である。時雨亭文庫には現在この定家自筆本は現存しないが、天文十五年(一五四六)に今川氏見の所望により冷泉為和(一四八六~一五四九)が定家原本を贈ったときの写本が伝存する。原本の寸法(縦一五・七センチメートル、横一五・〇センチメートル)を表紙に引いて示すなど、原本の姿を忠実に写している。
『伊勢物語』の注釈書で注目されるものに『和歌知顕集巻第二』がある。本書は今まで知られていなかった平安時代の注釈書で、鎌倉時代中期の書写になる。『伊勢物語愚見抄下』は一条兼良が編纂したもので、『伊勢物語』の学術的注釈書の最初という。この『愚見抄』を守護大名大内政弘の依頼により、文明八年(一四七六)に兼良が自ら書写したものである。下巻のみであるが、上巻を兼良自筆本から文明十一年に為広が書写した写本が伝存しており、併せて自筆本の姿を再現できる。他に『伊勢物語難儀注』などがある。
また『源氏物語』の写本としては、鎌倉時代後期の青表紙本の『かしはき』しか伝存しない点は惜しまれるが、源氏の注釈書はよくまとまって襲蔵している。
中でも注目されるのは『源氏物語釈』である。『源氏釈』とか『伊行釈』とも呼ばれ、平安時代後期に藤原伊行【これゆき】が著した『源氏物語』の最初の注釈書である。本書は鎌倉時代中期の現存最古写本であり、禁裏本の親本でもある。禁裏本は「明石」までしか書写されていなかったが、最後の「夢浮橋」まで完存して貴重である。『源氏物語聞書』は弘治三年(一五五七)四月十日から六月十四日の聞書帳である。『源氏物語』の講筵の様子を伝えて貴重である。他に『源氏物語系図』をはじめ、和歌を注釈した『源氏和歌集上』、辞書類の『和漢字源通釈抄』や三条西実隆注釈書『弄花抄』などもある。
このように、冷泉家伝存の物語類と注釈書は中世文学の研究の資料としてきわめて価値が高いものである。
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