十一面観音像
じゅういちめんかんのんぞう
概要
十一面観音は変化観音の一つであり、わが国では純密到来以前の早くから信仰された。絵画では飛鳥時代(白鳳期)の法隆寺金堂壁画第十二号壁が古例である。
本図では、観音は向かって左を向き宝壇の上の白蓮華座に坐し、右手は与願印を表しその手首に数珠をかけ、左手は胸前で紅蓮華をさした水瓶を持している。観音の頭上には菩薩面三面、瞋怒面三面、狗牙上出面三面、大笑面一面と頂上仏面を含めて十一面を表している。玄奘訳の『十一面神咒心経』にしたがう像容である。
なお、図の上方には宝相華文で装飾する華やかな天蓋がかかり、透かし彫り風の光背を負った観音が実在感のある台座に坐す姿は、いかにも実際の観音彫像を写したごとくである。面貌は奈良時代の古式を想像させる。肉身は淡紅色で塗り、朱線で描起し、そこに強い朱の隈取を施す。着衣上には地文様、主文様ともに截金文を置き、台座や天蓋ともに多種類の文様で厳飾している。
巻留めに南都法起寺に伝来した旨の近世の墨書銘がある。作風と合わせ考えて南都有縁の絵画としてよいと思われる。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.311, no.152.