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張良図沈金鞍

ちょうりょうずちんきんくら

概要

張良図沈金鞍

ちょうりょうずちんきんくら

工芸品 / 室町 / 関東 / 神奈川県

神奈川県

室町

木製黒漆塗り。居木【いぎ】先を除いて全面に布を着せ、表面は黒漆塗りとし、両輪内外に沈金の技法で図様を表している。その図様は、前輪【まえわ】外面山形に岩に腰を掛ける唐人物とその前に跪く男を、向かって右脚部に楼閣、左に流れに掛かる橋を表している。後輪【しずわ】では、山形中央の橋を渡って駆け去ってゆく馬上の老人と、手に沓【くつ】を持ってそれを追う男を、両脚に山水楼閣を表している。

前輪高29.7  前輪馬挟32.2  前輪中央厚4.2  前輪中央幅9.2
後輪高28.5  後輪馬挟38.9  後輪中央厚4.8  後輪中央幅9.5
居木長42.5  居木中央幅11.2  乗間31.8(㎝)

1背

馬の博物館 神奈川県横浜市中区根岸台1-3

重文指定年月日:19960627
国宝指定年月日:
登録年月日:

公益財団法人馬事文化財団

国宝・重要文化財(美術品)

 両輪に表された図様は、『史記』巻五十五「留候世家」(留侯=張良)中の、在野の兵法家黄石公【こうせきこう】と、漢の高祖劉邦の近臣として名高い張良の説話(黄石公が誤って川に落とした沓を張良が拾い上げてやったことが縁となり、後に兵法の秘伝書を授けられる)に基づくもので、老人が黄石公、もう一人の人物が張良を表している。この説話は幸若【こうわか】の能楽「張良」(室町時代成立)などに語られるように、兵法秘伝書伝授説の一環として中世に流行をみた。
 雄偉な鞍橋【くらぼね】の形態は一見すると鎌倉時代風であるが、居木中央幅が狭く、かつ居木裏の革通しの孔に沿って切目を深く彫る点、また居木先の上部を斜めに削ぐ点、両輪爪先部分が幅広い点などに、鎌倉時代鞍橋の特徴と多少相違するところが認められる。これは当時一部で行われていた復古的鞍橋製作の一例と理解され、同種の例に文保元年(一三一七)の年紀をもつ鞍橋を、鞍工伊勢家四代の貞誠【さだなり】(一四五二-一四九四)が模作した旨の刻銘がある、兵庫県赤穂市大石神社所蔵の勝虫蒔絵鞍【かつむしまきえくら】(蒔絵は後補)が知られている。
 沈金は浅く細い刻線描で、わが国の初期沈金の特徴の一つだが、複雑な鞍橋の曲面に巧みに表現されている。わが国における沈金技法は室町時代に始まるとされているが、本件は本格的な沈金の作品が製作されるようになりつつあった時期の数少ない沈金遺例であり、とくに中世鞍では唯一、沈金による装飾を施した作品として貴重である。

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前輪 / / / 両輪

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