金剛般若集験記
こんごうはんにゃしゅうげんき
概要
『金剛般若集験記』(3巻)は、唐の孟献忠が開元6年(718)に撰した『金剛般若経』の霊験記である。上巻は救護と延寿、中巻は滅罪と神力、下巻は功徳と誠応の計6篇、全70章から成り、初唐における『金剛般若経』信仰を示す貴重な史料である。わが国においても古くから流布し、『日本霊異記』に『冥報記』と並んでその名があげられ、また『今昔物語』などにも本書に由来する説話がみられるなど、説話文学に大きな影響を与えた。
本帖には承暦3年(1079)孟夏(4月)の藤原師国の書写奥書があり、書写年次を明らかにしている。藤原師国は『尊卑分脈』によれば、権中納言泰憲あるいはその弟である上総介邦通の子で、相模守、弾正少弼、従五位下であった。
本帖の首尾には「高山寺」の朱方印が捺されている。また表紙に「五十五箱」との朱書があるが、これは鎌倉時代の『高山寺聖教目録』の記載とも合致して、本帖が高山寺に伝来したことを確認できる。
『金剛般若集験記』の最古の写本は、平安時代前期に書写された石山寺所蔵の上巻および天理大学所蔵のその僚巻の残巻であるが、3巻を完存する写本としては本帖が最古本である。体裁は粘葉装で、表紙には竹の八双を付す。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.306-307, no.132.