空海筆 金剛般若経開題残巻(三十八行)
くうかいひつ こんごうはんにゃきょうかいだいざんかん(38ぎょう)
概要
空海(弘法大師、774~835)が、義浄訳『能断金剛般若経』を密教の立場から解釈したもの。文中には加筆訂正の跡が著しく、空海の自筆草稿本であることを明らかにしている。文字の運筆は鋭くかつ軽妙で、空海の草書の面目をよく伝えている。
もとは醍醐寺三宝院に伝来していたようで、早くに切断され、現存するのは約150行である。この残巻は有栖川宮家→高松宮家に所蔵されていた38行で、このほか京都国立博物館が所蔵する残巻63行(国宝、神光院旧蔵)やいくつかの断簡の存在が知られている。なお大正12年(1923)の大正大震災の折に、86行分は焼失してしまった。
弘仁4年(813)10月25日に、藤原葛野麻呂が『金剛般若経』187巻の書写供養をおこなった際、空海がその願文を執筆しており、本書はその折に作られたとする説がある。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.308-309, no.141.