「登髭」は能の中で狂言の演者が担当する間狂言で、本社に属する小神社（末社）の神に用いる。頬にある上向きの髭が名称の由来といい、人間に近い存在の神として、品格の中に親しみのある笑顔が特徴である。桐木地製で面裏は素地のまま仕上げられている。近世初期唐織を再利用した面包と雪輪市女笠模様摺箔を再利用した面袋が附属する。
　狂言面箪笥入りの十面のうちのひとつ。この一連の狂言面は、摂津国伊丹の銘酒「白雪」で知られる江戸時代以来の大造酒家・小西新右衛門の旧蔵品であり、大阪美術倶楽部において昭和8年（1933）1月24日に行われた「某家所蔵品入札」の売立目録に掲載される。小西新右衛門は平瀬露香とともに、近代能楽の発展に貢献した後援者でもあり、演者としても知られている。同売立目録では「登髯（桐ノ木）」と記載される。