猫図
概要
釈迦の一生を描いた伝仏の中の一場面に、釈迦が永遠の眠りにつく、いわゆる涅槃がある。それを絵画化して、涅槃会などの本尊として使ったのが涅槃図と呼ばれるものである。
涅槃図には、釈迦の最期を看取るために参会した弟子や菩薩などのほかに、日本の涅槃図では数多くの動物が描かれる。その中にはじめて猫を加えたのが室町時代の画僧明兆だと伝説的にいわれている。その真偽のほどはわからないが、このわたしたちにいちばん身近な動物を涅槃図に、と思い立った動機は何だろうか。
江戸時代後期の画家長沢蘆雪は、好んで猫を描いているし、幕末の浮世絵師歌川国芳は無類の猫好きだった。
月僊の描く猫も、柔らかい筆で輪郭線を引き、わずかに彩色を施した簡単な絵だが、おそらくは身近にいたはずの猫を、親しみを込めて、しかし、きわめて的確な写生で生き生きと描きだしている。 (山口泰弘)