二河白道図
にがびゃくどうず
概要
中国・唐の善導(613~681)が著した『観無量寿経』の註釈書である『観無量寿仏経疏』(『観経疏』)巻第四で、この二河白道の譬喩が説かれている。わが国では法然(1133~1212)や親鸞(1173~1262)がその著書で引用・言及してから浄土教諸派で絵画化されるようになる。
現世で群賊や悪獣(悪や誘惑の譬え)に襲われようとする衆生が、西(極楽浄土の方向)に向かって走ると目前に火河と水河(自身の「いかり・憎しみ」と「こだわり・むさぼり」の心の象徴)が現れる。その間にわずかに白道(極楽往生を願う清浄な心)が対岸に向かってのびる。衆生は一心に阿弥陀を念ずることによって迷うことなく白道をわたり極楽往生をとげるという。二河白道図は『観経疏』の二河譬を典拠とした絵画化にあわせて、娑婆世界の多くの景物情景が描き込まれるのが特徴である。図は上左方が阿弥陀の極楽浄土で、宝池の中に化生人物を、また白道の彼岸(西岸)には迎接の阿弥陀三尊を表している。銀泥や截金で装飾した洲浜形を象り、宝樹や花卉、霊鳥などを美しく配している。下段(東岸)は現世を表し、悪獣や襲いかかろうとする武士、悪に誘惑しようとする人物などを細かく描いている。本図の細密画的な精緻な表現はきわめて特徴あるものだが、これは京都・知恩寺本や奈良国立博物館本をはじめとする同時代の観経序分義図などの当麻曼荼羅派生図の表現に近いことが興味深い。なお、香雪美術館本には韋提希(いだいけ)夫人を明らかに描いていて、二河白道図と序分義図との密接な関係を想像させる。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.315-316, no.168.